特に気になるのが定冠詞(definite articles)で、英語の"the"に対応する言葉がフランス語では実に4種類("le"、"la"、"l'"、"les")もあって、その使い分けに苦心する一方、どうやら定冠詞を使う場合というのは、英語よりフランス語の方が多い、ということが分かって来ました。つまり、仏英翻訳においては、定冠詞"le"と"la"と"l'"と"les"のいずれかを見かけたらとにかく"the"に置き換える、という方法ではだめで、仏文で定冠詞があっても、英文では使わない場合がかなりあります。
とまあ、デュオリンゴ式にとにかく実践でその違いを肌で感じていたところ、ある例文についての議論でも同じようなことが話題にのぼっていて、そこで引用されていたのが、About.comの次の文章。フランス語で定冠詞を使う場合が、英語と比較しつつ、表で分かりやすく解説されています。読んでみて頭がかなりすっきりしました。
French Definite Articles - About.comざっくり言うと、英語とフランス語、両者に共通して定冠詞を使うのは、特定の名詞(specific noun)、すなわち何を指しているかが相手にすぐわかる特定のものを指す場合。例えば、「私は銀行に行きます。」は、フランス語で
Je vais à la banque.
英語では、
I'm going to the bank.
となります。この場合の銀行(仏 banque、英 bank)は話者と聞き手、双方が知ってる銀行。
それに対して、フランス語では定冠詞をつけるのに、英語だとつけない場合というのは、名詞が一般的な意味で用いられる(used in a generic sense)場合。例えば、「私はアイスクリームとチョコレートとケーキが好きです。」は、フランス語で
J'aime la glace, le chocolat, et le gâteau.
英語では、
I like ice cream, chocolate, and cake.
となります。どんだけ甘いものが好きなの!?とつっこみたくなる例文ですが、それはさておき、もちろんここでの、アイスクリーム(仏 glace, 英 ice cream)、チョコレート(仏 chocolat, 英 chocolate)、ケーキ(仏 gâteau, 英 cake)はそれぞれ一般的なものを指します。なんだか英語の方が、定冠詞がある場合とない場合の区別がすっきりしてわかりやすい気が。
他にも、集団あるいは集合をあらわす名詞(groups of people or things)については、フランス語と英語で定冠詞の用法がことなります。例をあげると、「わたしは猫と犬が好きです。」は、まずフランス語で、
J'aime les chats et les chiens.
英語では、
I like cats and dogs.
となるそうです。ここでの猫(仏 chat, 英 cat)と犬(仏 chien, 英 dog)は見知らぬ猫や犬も含む猫全体、犬全体を指すと思われます。
とすると、フランス語では、特定の猫の集団と、一般的な猫の集団は同じく、"les chats"なの?という疑問も湧きますが、そもそも日本語では冠詞がなくてもなんとかなってるんだし、きっとそんなに困らないんでしょう。(って言ってると、文法的に正しいフランス語から遠ざかるのかもしれませんが…)
ところで、デュオリンゴの実践翻訳の課題文はWikipediaの文章が多いのですが、どうやらこのことも、フランス語の定冠詞をやたら眼にすることと関係なくもなさそう。というのは、フランス語では、日付などの時間、国などの場所、で定冠詞がやたらと使われるから。
About.comの解説で、なんだか英語とフランス語の定冠詞はばっちり!な気分にいったんはなったのですが、手元にある英文法の本、「英文法解説」に例外的用法がたくさん載っていて、再びわたしの頭の中は混沌としてきました。
まあ、言語は生き物だから、文法でそう簡単に説明できないよね…。でも文法を意識しつつ、その言語を使ってたら、何か見えてくること、あるのかも?