というのはそう、例の『翻訳教室
一昨年の秋にわりと真面目にこの本に取り組んでみたのですが、翻訳の楽しさ以前に英語力が足りないことを痛感して路線変更。まずもうちょっと英語のインプットをと、昨年はTOEICで基本的なところを、英語耳やフォニックスで音の感覚をトレーニングしてみました。
その甲斐あってか、ハードルがすこし低くなったというか、訳す際に立ち止まる時間が減ったよう。でもまだ英文法で怪しいところはあるし、ボキャブラリーが足りない。何より、日本語の語感と英語の語感の対応関係の感覚が足りない。
などなど、柴田さんがいう「考えずに訳せる」境地にはまだまだですが、今回のこの課題では翻訳、特に小説を翻訳する面白さを深く実感できました。なんというか、物語をただ読むよりもずっと深く物語の中にはいれる感じ。
日本語の小説、特に、村上春樹の小説は、するするっと読めてしまうので、それを書いた人のちょっとした言葉づかいをいちいちチェックするなんてことはしませんが、英訳された文章を読んでそれを日本語に訳し、さらに原文の日本語と比べてみると、英訳した人の工夫がみえてきてすごく面白いです。言葉だけでなく、生活習慣による違いへの訳者の気遣いがみえてきてへえ。
例えば。仕事から帰ってスーパーで買い物してからアパートの部屋に戻った主人公。部屋の中には「かえるくん」がいるので、玄関口で呆然。なかなか靴を脱ぐことができないのですが、そもそも日本の玄関口とアメリカやイギリスの玄関は違うというか、靴を脱ぐか脱がないかの違いがあるわけで、そこをふまえて英訳者、Jay Rubinさんは一工夫。日本語の原文では単に「床」とあるところが、英訳版では"the raised wooden floor"と、ちょっと説明的になってます。
さらに、原文では単に「野菜」とあるのが、英訳では"fresh vegetables"となってたところについては、アメリカで単に"vegetables"だと、冷凍だったり切ってあったりする可能性もあるから、とあって、これもへえ!やっぱり翻訳って現地の事情を知ってるかどうかも大事だなあと思ったのでした。
それにしてもこの授業、途中で訳者のJay Rubinさんがはいってきて議論に加わるし、さらにその後は村上春樹氏まで登場!なんとも豪華です。