2014年4月25日金曜日

バリー・ユアグロー『ハッピー・バースデイ』 "HAPPY BIRTHDAY" by Barry Yourgrau

翻訳教室 』に続いて、『柴田元幸ハイブ・リット』を淡々と訳すことにして、というのはすでに書きましたが、とにかくまずは最初の作品を訳してみました。バリー・ユアグローという作家の超短編で、"HAPPY BIRTHDAY"。

『柴田元幸ハイブ・リット』では、それぞれの作品の前に、柴田先生による短い作品紹介があります。で、今回の場合は、バリー・ユアグローの超短編はほとんど全部現在形で書かれていること、現在形の語りは一般的に過去形に比べて先行きが見えない感覚が強まるけれども、バリー・ユアグローの現在形は一瞬先にはどんなことだって起きうる、夢の世界と直結した現在形であること、など、とにかく「現在形」について書かれています。

が、ぼおっとそこをななめ読みして"HAPPY BIRTHDAY"の英文和訳をはじめ、物語に夢中になってしまったわたしは1パラグラフ訳してからその英文が全部現在形で書かれていることに、でも訳文は、全部過去形にしてしまったことに、気がつきました。この内容なら、普通は過去形だよね、となんとなく過去形にしてしまったことが、我ながら恐ろしいです。

気を取り直して現在形に直してみると、物語の緊迫感というか、ドキドキワクワク感がぐぐっと高まったのがよくわかって驚きました。過去形だと、
一匹の猿がバースディ・パーティを開こうと思い立った。ケーキやカラフルな帽子や騒々しい鳴り物がある本物のパーティだ。動物園にやって来る子供たちがいつも自慢しているようなバーティを開きたかった。ほかの猿たちは大笑いした。
「バースディ・パーティーだって?」と、猿たちは素っ頓狂な声を上げた。「ばかかおまえ?自分が猿だってこと忘れたのか?」
と、よくある子ども向けの動物のお話、な感じですが、これを現在形にすると、
一匹の猿がバースディ・パーティを開こうと思い立つ。ケーキやカラフルな帽子や騒々しい鳴り物がある本物のパーティだ。動物園にやって来る子供たちがいつも自慢しているようなバーティを開きたい。ほかの猿たちは大笑いする。
「バースディ・パーティーだって?」と、猿たちは素っ頓狂な声を上げる。「ばかかおまえ?自分が猿だってこと忘れたのか?」
と、なんだか脚本を読んでるような感じというか、自分も物語に参加しているような感じがでてきます。

で、もちろん作者はこの現在形の効果をよくわかっていて、物語の最後には読者も登場!?することに。
というわけで猿は悲しいし、私も悲しいし、あなたも悲しい。
訳し終わり、あー、わたしも悲しいことにされちゃったよ、バナナでも食べようかしら、なんて気持ちになったところで、そう、これはCDブックだし、と、作者の声というか、朗読を聴いてみると、バリー・ユアグローがぐっと身近に。一緒にみんなで悲しくなってオシマイって、洒落てます。

読み物としては、この超短編、もちろん短いけど、朗読で聴くにはいい長さかも。大人のための絵本ならぬ、大人のための朗読劇です。


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